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ネガティブ感情との上手な付き合い方

コラム

人が生きていく中で、ポジティブな感情だけを抱き続けることはできません。怒りや不安、悲しみや嫉妬といったネガティブな感情は、誰の心にも自然に訪れるものです。

私たちはつい「こんな気持ちになる自分はダメだ」と責めたり、無理に押し込めたりしてしまいます。しかし心理学の研究や現代の心理療法では、ネガティブ感情は避けるべき敵ではなく、人生をより豊かにするためのサインとして向き合うことが大切だとされています。


ネガティブ感情は心のサイン

たとえば感情心理学の分野では、ポール・エクマン(Ekman, 1992)が提唱した「基本感情理論」により、怒り・悲しみ・恐れといったネガティブ感情も人間に普遍的に備わった“適応的な反応”であるとされています。

怒りは「自分や大切なものが脅かされている」ことを知らせ、不安は「未来に備える必要がある」ことを教えてくれます。悲しみは「大事な存在を失った」ことを感じさせ、嫉妬は「自分が求めているもの」に気づかせてくれます。

また、感情は「生きるためのセンサー」であり、避けるのではなく“読み取る”ことが重要だとされています(中村, 2016)。つまり、ネガティブ感情は心のセンサーのようなものです。感情に振り回されてしまうと苦しいですが、その感情が何を伝えようとしているのかを理解すると、自分を知る手がかりになります。


抑え込むと苦しみが増える

現代の心理療法 ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー) では、人が苦しくなるのは「不快な感情があるから」ではなく、「その感情を避けようとする努力」そのものに原因があると考えます。

ACTは、米国の心理学者スティーブン・C・ヘイズら(Hayes et al., 1999)が提唱した心理療法で、「経験の回避(experiential avoidance)」が苦しみを増やすという考えに基づいています。
近年は日本でも「心理的柔軟性(psychological flexibility)」という概念として研究が進み(森本, 2018)、ネガティブ感情を受け入れることがレジリエンスを高める要因として注目されています。

たとえば、不安を感じたくないからと仕事を先延ばしにしたり、怒りを押し込めて笑顔を作り続けたりすると、一時的にはやり過ごせるかもしれません。しかし、感情を避ける行動は、かえって心の中で感情を強め、膨らませてしまいます。

ACTでは、ネガティブ感情を「なくそうとする」のではなく、まず「存在を認める」ことを重視します。私たちの心に浮かぶ不安や怒り、悲しみは、良い悪いで判断するものではなく、人間として自然に訪れる現象なのです。

「いま自分の中にこんな感情がある」と認めるだけでも、感情に振り回される力は弱まり、徐々に落ち着きを取り戻します。そして、そのエネルギーを避けるのではなく、自分が大切にしたい価値や方向に沿った行動に変えていくことができます。


感情との付き合い方の3ステップ

  1. 気づく
     「いま私は怒っている」「不安を感じている」と、自分の感情に名前をつけてみます。言葉にすることで、感情と自分を切り離して客観的に見ることができます。
  2. 受け入れる
     感情を良し悪しで判断せず、「こういう感情もある」とそのまま受け止めます。受け入れることで、感情は自然に落ち着きます。
  3. 意味を考える
     「この怒りは何を大切に思っているから湧いたのだろう?」「不安はどんな準備を促しているのだろう?」と問いかけることで、感情が自分の価値観や本音を映す鏡であることに気づきます。

ネガティブな感情を持つ自分も含めて大事にする

ネガティブ感情は切り捨てるものではなく、自分を理解する大切な要素です。感情を認めることで、「ポジティブでなければならない」という窮屈さから解放され、柔軟に生きられるようになります。

カウンセリングに来られる方の中には、「不安や怒りを抱く自分はダメだ」と悩む方もいます。しかし、その感情を抱くこと自体が「自分の大切なものを守ろうとする力」の証拠です。感情に目を背けず、「こんな自分も含めて私は私だ」と受け止めることができれば、心は少しずつ軽くなります。

ネガティブ感情を健やかに受け入れ、上手に付き合うことは、人生をより豊かに、そして自由に生きるための大切な力となるのです。

カウンセリングでは、一緒に「今の感情は何を伝えようとしているのか」を整理し、受け入れながら、少しずつ自分らしく生きる力を取り戻していきます。

「感情に振り回されずに、自分の大切なことに向き合いたい」そんな方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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